村上 龍著「半島を出よ」を集中して読みたいので稽古後
ロイヤルホストに一人でいた 読書に集中していると
見たことのある青年が2人で入ってきた

数年前、しばらく会っていなかった息子の敦史が
たくさんの中学生を連れてきた

翔吾 青笹 金井 吉岡 そして、いさむ

一般部をボコボコにしていた臨海町コミュニティ会館に
恐る恐る6人の中学生が入ってきた
まだ幼さを残す少年達が入門した

それから欠かさず稽古に来た6人は高校に入り
自分の道を歩いていった

敦史と青笹が関一 吉岡といさむが葛西工業
金井と翔吾が葛西南

「誰だったかなぁ」
隣に座った青年はひげを伸ばし、髪の毛を後ろに縛っている
同行の青年は一見、暴走族風の突っ張った兄ちゃんだった

「向こうから挨拶してこないのだから、まぁいいか」

本を読みながらも、隣の話が聞こえてくる

「まじ、あいつ おわっているなぁ」
「超むかつくよ、今度、しばいてやるか」
いろいろな話題の後、話の中で「いさむ」と言った

そうか、こいつは「いさむ」だった
確か、白黒の運動靴を気に入って履いていた

「チェッカーいさむ」

「まさか、あっくんがプロになるとは思わなかったよなぁ」

おっ知っているのか 

「うち、親父が帰ってこなくなったから
母ちゃん、飯作らなくなった・・・」

すこし心が痛んだ

「うちは公営の団地だから、そうゆうのたくさんいたけどなぁ」
「帰ってこなくなった親父も不幸だよな」

「いや、そうでもないぞ・・・」

知らんぷりしていたら小一時間が、たった

「や、やべぇーー」「どうしたんだよ???」

2人を見ると直立不動で固まっている

「し、重松塾長ですよね」恐る恐る聞いてきた

「やっと、気がついたか 久しぶりだなぁ」

「お、お久しぶりです・・・」

彼はこれから、新宿に越すらしい デザイン関係の専門学校に
行っていたけれど、高すぎて通えきれなかったという

敦史のデビュー戦は2階の席から応援してくれていた
「あっくんは俺たちの誇りだと思っています」
「青笹は帰ってきたんですか?」

友達というのはありがたい いろんな事を知っていた
そして、陰ながら心配してくれている
「青笹には空手しかないですから・・・塾長、青笹をお願いします」

吉岡は結婚して今月、子供が生まれるという
北葛西のピザ屋で店長をしている

金井は本八幡のピザ屋で店長をしている

何でみんな、ピザ屋なんだ・・・

同窓会で集まると決まって話題は松栄塾だったという
「塾長は本当に怖かった 殺されるかと思った」
「辛かったけど毎日、楽しかった」
「自転車で通いながら、みんなでコンビニにより
遅くまで話し込んでいた、お金がなくてジュースが
買えなかったとき小銭を塾長がくれて、うれしかった」

そして「あの時確かに僕たちの青春は松栄塾にあった・・・」
「今、辛いことがあるとよく、あの時のことを思い出すんです・・・」
「あの時は本当にありがとうございました いつか、必ずこの恩を返します」

「読んでいた本の文字が霞んで見えなくなった」

何にも残らなかったと書いたけれど
そんなことはないと思い直せた

帰り際、直立不動で見送ってくれた、いさむくん
ロイホを出るとき確かに胸の前で十字を切った

    「押忍」